高血圧の治療というと、「血圧の薬を飲むこと」を思い浮かべる方が多いかもしれません。もちろん、必要な方には降圧薬をきちんと服用していただくことが大切です。しかし、血圧を決めているのは薬だけではありません。塩分、運動不足、体重、飲酒、そして睡眠。毎日の生活習慣も血圧に大きく影響しています。今回はその中でも、今日から取り組みやすい「減塩」「運動」「睡眠」の3つについてお話しします。① 減塩 ― まずは「1日7g未満」を目標に高血圧の方に勧められている食塩摂取量は、1日6g未満です。なかなか厳しい目標です。一方、日本人の食塩摂取量は平均すると現在も1日約10gです。多くの方が目標よりかなり多く摂っています。当院では達成しやすい1日7gを第一目標として、最終的に6gを目指す方法を勧めています。塩分は意外なところに隠れています。味噌汁、漬物、麺類の汁、加工食品、総菜、外食、しょうゆやドレッシングなどです。すべてを薄味にするは現実的に難しいです。「かける」より「つける」「麺の汁は残す」「食品表示の食塩相当量を見る」この3つから始めてみましょう。減塩の効果は小さくありません。食塩摂取量を減らすことで血圧が低下し、特に高血圧の方ほどその効果が大きいことが示されています。数mmHgの違いでも、それが毎日、何年も続けば血管にかかる負担は変わってきます。② 運動 ― ウォーキングだけが「運動」ではありません「運動してください」と言われて、「毎日30分歩かなくてはいけない」と思っていませんか?もちろんウォーキング、軽いジョギング、自転車、水泳などの有酸素運動は、血圧管理にとても良い運動です。目安は、少し息が弾むけれど、会話はできる程度です。でも、大切なのはここです。筋トレも立派な運動ですスクワット、椅子からの立ち座り、軽いダンベル運動などの筋力トレーニング(レジスタンス運動)にも、血圧を下げる効果が報告されています。さらに筋力を維持することは、サルコペニアや転倒の予防にもつながります。ただし、非常に重い重量を持ち上げたり、息を止めて強く力んだりすると、一時的に血圧が大きく上昇します。「息を止めない」「無理のない負荷で行う」ことがポイントです。ヨガだって運動です「歩くのは苦手だけれど、ヨガなら続けられる」それなら、ぜひ続けてください。ヨガは身体活動に呼吸法やリラクゼーションを組み合わせた運動で、血圧低下を示した研究もあります。ウォーキング、筋トレ、ヨガ、ストレッチ、自転車、水泳など、自分が楽しんで続けられる運動を見つけることが何より大切です。③ 睡眠 ― 「いびき」が血圧上昇のサインかも?食事と運動に比べて見落とされやすいのが睡眠です。睡眠不足や睡眠の質の低下は、高血圧と関連します。特に注意していただきたいのが、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA:いわゆる睡眠時無呼吸症候群)です。睡眠中に何度も呼吸が止まると、低酸素状態になるたびに交感神経が刺激され、血圧が上昇します。次のような方は注意が必要です。大きないびきをかく家族から「寝ている間に呼吸が止まっている」と言われる昼間に強い眠気がある肥満がある朝の血圧が特に高い夜になっても血圧が下がらない降圧薬を何種類使っても血圧が下がりにくい特に、薬を複数服用しても血圧が十分に下がらない治療抵抗性高血圧では、睡眠時無呼吸が隠れていないかを考えることが重要です。また、睡眠時間だけではなく睡眠の質も大切です。規則正しい生活を心がけ、質の良い睡眠を確保することも血圧管理の一部なのです。Q&AQ.血圧が高くても筋トレをして大丈夫ですか?A.適切な強度であれば、筋トレもおすすめできます。軽~中等度の負荷から始め、息を止めないことが大切です。ただし、血圧が著しく高い方や心臓病・大動脈疾患などをお持ちの方では運動内容を調整する必要がありますので、事前に相談してください。Q.ウォーキングが続きません。ヨガだけでも意味がありますか?A.意味があります。ウォーキングだけにこだわる必要はありません。ヨガ、筋トレ、自転車、水泳などを組み合わせても構いません。「一番効果がありそうな運動」より「自分が続けられる運動」を見つけることが大切です。高血圧専門医からのワンポイント・エビデンス「数mmHgくらい下がっても意味がない」と思っていませんか?実は、そんなことはありません。収縮期血圧(上の血圧)を10mmHg下げることで、脳卒中や心臓病がおよそ2割減少することを一般向けにも紹介しています。毎日の小さな変化を積み重ねることが、将来の脳卒中や心臓病を防ぐことにつながります。高血圧専門医からひとこと当院で生活習慣の改善は、できることから始め、継続できるように指導しています。「毎日30分走る」「一気に10kg痩せる」といった大きな目標はなかなか続きません。味噌汁を飲む回数を減らす。できるだけ階段を使う。YouTubeを見てヨガをする。寝る時間を少し早くする。それで十分、第一歩です。高血圧治療は短距離走ではありません。自分に合った方法を、無理なく長く続けることが10年後、20年後の血管を守ることにつながります。次回予告第4回「降圧薬は一生飲むの? 高血圧の薬についてよくある疑問に専門医が答えます」「薬を始めたら一生やめられない?」「血圧が正常になったら薬は不要?」「降圧薬にはどんな種類がある?」など、診察室でよく聞かれる疑問をわかりやすく解説します。